ラスとシエル
『夕方なんか用事ある?』
ラス――ラスフェルドから連絡が入ったのは昼過ぎのこと。
特に無いと答えれば、夕方にラスの家に来いとだけ言われた。
フェイヨンの一角に奴の家はある。
借家だそうだが、両親と妹をなくしたばかりの彼を哀れんでか、大家が出世払いでと好意で貸し出してくれていたという。
安定した稼ぎを得るようになると、それまでの家賃と共に改めて契約しなおしたのだという。
そんな古き良きフェイヨン風の家が見えたあたりで、
『ラス、もうすぐ着くけど』
WISを飛ばせばそのまま入れと指示が来た。
「入るぞ」
鍵のかかっていない扉を開ければ、甘辛い香りが広がった。
「忙しいとこ悪いな、入れよ。居間行っといて」
赤毛をひょこりと覗かせると、家の奥を指し示してラスは笑って言う。
居間には炬燵が用意されていて、いつもの場所に腰を落ち着ける。
アマツでは普及しているという炬燵に入ると、冷えた下半身が徐々に温もってきて心地良い。部屋自体も暖房を入れているらしく、温かいのだが。
程なくして、ラスがやって来る。
「シエル、すまんな」
そう言いながら炬燵の上に並べるのは、サラダとご飯、味噌汁。
それから、かぼちゃ料理。
箸が苦手な俺用にと、スプーンも一緒に用意して出される。
「ああ、甘辛いって言えばいいのかな、あの匂いってこれか」
「今朝アマツの商人からかぼちゃもらってさ、ついでに煮てみたら一人じゃ食えないほどできたんだよ」
レシピは隣のおばちゃん秘伝だと、笑う。
つつけば崩れそうなほど良く火が通ってるかぼちゃは、凄く美味しそうだった。
ラスは一人暮らしが長いせいか料理が上手い。
あっという間にいろんな料理ができるのだからすごいものだと思う。たまに作りすぎたと、こうして呼び出しがかかるわけだ。
そのまま雑談や、今度の攻城戦についてやアイテム相場について話し合いながら、軽く酒も交わす。
楽しい時間ほどあっというまにすぎるのが、もったいない。
「そろそろ戻るわ」
そう答えいつもの様に、二人してカプラまで歩く。
見送らなくていいというのに、来てもらって悪いからとわざわざこの男は毎回ついてくる。
決して長くない道のりだ。
「そういやお前、クリスマス休めんの?」
「んなわけないだろ」
唐突な質問にため息混じりに返せば、ラスはだよなぁとわかりきっていたように言う。
「大聖堂はこの時期大忙しさ。運のイイ恋人持ちさんが何人か休み取れた程度。俺らは多分騎士団あたりと連携して見回り! ユノーあたりはミサとか奉仕活動だとかで一日拘束されんじゃね?」
そういうお前はと問えば、俺も仕事だとラスは言う。
「イベント時期は俺ら商人の稼ぎのチャンス! ってことで俺は少なくとも終日プロで露店だ」
言われてそういえばと思い浮かべる。
毎年プレゼントボックスだのリング、菓子の類を並べている。
「寒いのによくやるよな」
「そっちこそ。しっかし今年は前日攻城戦だろ? そのあと夜半まで仕事とか聖堂組に少し同情する」
それには流石に苦笑するしかない。
休みはなんだかんだで恋人持ちを優先してやってのだ、少なくとも俺の部署は。
ギルド内でも騎士団や聖堂に所属する者はいて、攻城戦の翌日に、それぞれ仕事があったりする。
それでも昨年よりはマシだとは思っているが。
「と、ここまでだな。見送りありがと。またGvで」
カプラの前まできて、別れを告げると、
「今日はわざわざ悪かった……あと、これ土産。風呂に一緒に入れて入るといい」
ほらっと渡されたのは薄い黄色の球体。
「柚子?」
「そうそう。温まっとけよ、風邪ひいたら洒落にならん」
それだけ言うと、ラスはさっさと自宅へ戻っていく。
「風邪ねぇ」
もらった柚子を懐にしまうと、
「プロンテラまでお願い」
行き先を告げてフェイヨンをあとにした。
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2012/12/21
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