身勝手な人
名前の無い島にあるその修道院はかつては人で賑わっていた場所、らしい。
修道院と言えば清浄なイメージがあるのに対して、今や不死者が彷徨い歩く場所になっている。
危険な場所ではあるけれど、俺達冒険者にとっては修練を積むには最適な場所だった。
「前、三セットかなー」
戦闘を歩く青い髪のロイヤルガード・シエルリッドは、少し振り返って様子を確認するとすぐさま突っ込んでモンスターたちの意識を固定する。
「了解、アスムプティオ!!」
褪せた金色のアークビショップ・ユノーは、ロイヤルガードに奇跡をかぶせ、
「いくよー! ――クリムゾンロック!!」
明るい赤毛のウォーロック・イルトは、楽しげに口元を歪めて魔法を放つ。
それで、モンスターは消滅だ。幾らか落とした収集品を拾い上げカートに適当に放り込む。
「そろそろ一時間だけどどうするよ」
残存する回復剤等の数量を伝えて、俺は皆にそう告げる。
「ああ、もうそんな時間か。レベル上がりそうって人、いる?」
ロイヤルガードにハイネスヒールを重ねながらユノーはそう問いかけた。
赤い目がぐるりと皆を見回すのに、俺を含めて誰もが横に首を振る。
「それじゃあポタ出す」
ユノーがそう言って青石を手にした時だ、
「――逃げてえぇ!」
遙か前方で、誰かの悲鳴が聞こえた。
瞬時に顔を見合わせ頷くと、声の聞こえた方へ進み始める。
「決壊、かな」
「可能性高いんじゃね」
イルトの言葉に俺も同意してそう返した。
突然の襲撃などのトラブルで前衛が抱えられず回復も間に合わずパーティが壊滅することは、悲しいことによくあった。
助ける義理も義務もないけれど、俺達は可能であれば救援に向かうことにしていた。その行いがいつか自分たちに還ってくるかもしれないからだ。
「ちっ。五セット位見えるけど広間の入り口だ。奥にまだいる!!」
「全部抱えれそう? シエルが無理そうなら僕も二セットくらいなら引き受ける」
支援を上書きしながらユノーとシエルは打ち合わせていて。
「いや、俺が二セットくらい引き受けるからユノーはそのまま相手側助けてやってくれ」
狭い通路を走りぬけ邪魔なモンスターを焼き払い合間に回復剤を手渡して、
「任せた」
ターゲットを固定するためにヒールをシエルリッドは使う。
「レックスエーテルナ!!」
「リリース――クリムゾンロック!!」
魔法書に封じたスキルを解放し、数対のネクロマンサーたちを処理して。
「こっちだよ、ファイヤーボール!!」
炎の魔法を打ち込んで壁を背に一セット引き受ける。
「ラスフェルド、ちょっとだけ耐えて!」
足元にセイフティウォールとサンクチュアリを敷いて、ユノーは倒れている冒険者に蘇生魔法を施すために神へ祈りを捧げる。
その俺とシエルリッドはアイスを食いながら耐え、イルトは魔法の詠唱を重ね焼き払う。
奇跡的にも立て直しと殲滅は順調だった。
三階に続く広間の入り口付近で、モンスターが大量にいたにもかかわらずだ。
相手側のパーティもおおよそ復帰し、ブラギを借りての場の制圧。
敵影も彼方にしか見えなくて、後湧きもなく。
「ありがとうございました、助かりました」
助けたアークビショップが深々とお辞儀して、互いにねぎらいの言葉をかけていて。
完全に油断していたんだろう。
「うしろ!」
聞き慣れた声がして、ぐしゃりと、嫌な音と押し殺すような苦痛に満ちた悲鳴。ぴしゃりと、床を打つ音。
「――セイフティウォール」
青と白の法衣を真っ赤に染めて、ブルージェムストーンが砕け散る。
「リリース――クリムゾンロック!!」
「ハイネスヒール!」
レックスエーテルナ、ディボーション、クリムゾンロック。
複数人の声が重なって、刹那モンスターは消滅した。
「ユノー!」
膝をついた彼に対してイルトが駆け寄って、別のアークビショップがユノーに何度もヒールを重ねて。
「そんな……心配しなくても平気だよー」
背中を、左肩から右の脇腹にかけて切り裂かれたアークビショップは、立ち上がって自身にもヒールをかけながら、苦笑してそう言う。
「完全に油断してた……アークビショップさんすみません、支援ありがとうございます」
「……とにかく、戻ろう」
硬い口調でシエルリッドがいい、二つのパーティは同意してプロンテラへ帰還する。
精算広場に戻って再度、ねぎらいとお礼、ユノーへの心配の言葉をかけられて、彼らとはわかれた。
「お前、ほんとに大丈夫か」
「ん、ヒールで傷塞がってるし、平気。やっぱ怖いねぇ、ソニックブローでキリエ一瞬で持ってかれた」
へらりと、赤い目を細めてユノーはなんでもないと、重ねて言う。
「本当に大丈夫なんだよな? ……とりあえず戻ろう」
不服そうなイルトに、シエルリッドも同意しながら、ギルドハウスへ向かって歩く。
『あんまり無茶、すんなよ』
ウォーロックとロイヤルガードに先を行かせ、後を歩くユノーにWISを送れば、心外だというように、彼は眉を上げて口元に笑みを浮かべる。
『まぁ仕方ないさ……しみついちゃった』
『何言っても無駄だろうけど、少しは自分を大事にしやがれ』
そう返してやれば、眉尻を下げて、口の動きだけでユノーは努力すると伝えてきた。
それから早足で前を行く二人に近づいて、声をかけ始めた。
ざっくり切り裂かれ赤く染まった法衣の隙間からは、一瞬、新たにできた傷痕が確認できた。
ユノーというアークビショップは、プリースト時代から何かと無茶をやらかしていた。
イルトとのペア狩りで前衛をはるのは当然だとしても、力量差のある上位職に喧嘩をふっかけてボロ負けして戻ってくるのを何度かやらかしたりと、己を顧みないように、俺は思う。
アークビショップになってからは一瞬落ち着いたように見えて、更に悪化した。
執拗に誰かを守りかばおうとするのだ。
さっきの狩りは、本当に不意打ちだったかもしれないが。
『シエル、やっぱ要注意だわ』
『みたいだな、了解。俺も気をつける』
WISを送れば和やかに三人で会話しながら、短くその言葉が返ってきた。
これ以上無茶をしないようにという、監視だった。
「控えてくれたら、いいんだけどな」
ユノーの背中を見送って、小さくつぶやいた。
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守る、ことを意識しすぎて、自分を無視してる。
周りはそれ把握して、何とかしたいみたいな。
2013/03/08
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