寂しい夜に

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※B注意


 今日もきっと眠れないから、ギルメンと一緒に杯を交わした。
 出してもらったおつまみがおいしくて、いつもよりハイペースで飲んだ。ほろよい気分と心地良い眠気。
 きっと今日はゆっくり眠れるだろう。
 そう思っていたのに裏切られて、もう何度目の寝返りだろう。

 枕に顔を埋めて、壁を背中にして、仰向けに転がって。
 眠いとは思っているのに、ポリンを数えても眠りに落ちることはなかった。
 ずっと前にお酒と一緒に薬を飲んでめちゃくちゃ怒られたからその手段は使えない。何よりしんどいのは僕なわけだし。
「ルアフ」
 と小さく呟いて、枕元の時計に手を伸ばせば、日付が変わって一時間と少し。ベッドに入って三時間ほど。
「どうしよう……」
 多分もう酔った所で意味は無い。起き上がってWISリストを開く。
 そこに並ぶ名前の大半は、こういう日の『お友達』ばかり。
 でも、時間的に皆今日のお相手がいるだろう。
「……あー」
 あいつならと、浮かんだのは赤毛の友人で、
『ラス、起きてる?』
『起こされた』
 WISを飛ばせば、そう間もあかず返答が来た。
『一緒に寝て』
 要件だけ告げれば暫しの沈黙。
『お前、時間考えろよ、今何時だと思ってんの?』
 若干呆れた声が返ってくるのも想定内。
『寝れないから仕方ないじゃん』
『いつも酒か、その辺で誰かひっかけてんだろ! なんで今日に限ってなんだよ、俺も眠いの』
『誰かと寝てんの? それなら遠慮する』
 不機嫌そうな声に関わらず、そう言ってやれば、再び沈黙と少しためらうような気配。
『ユノー、お前どうせハウスなんだろ……どうすんだよ』
 返ってくる答えに自然笑みが浮かぶ。だからラスは大好きだ。
『うん。一緒に寝てくれるならどっちでも』
『わかった――いつもの宿前で』
 そう彼は言って、WISを切断された。
 結局ところ、なんだかんだで彼は優しい。
 起き上がって、素肌の上から椅子に引っ掛けたままの法衣に袖を通す。
 欠伸ひとつ零して、ブーツに足を突っ込んでギルドハウスを抜け出す。
 ラスフェルドはよくこうして僕に付き合ってくれている、いい友人だ。仕方なしにと言った部分のほうが強いだろう。
 今のギルドに移籍する前のことだ。
 ちょっとしたことを切っ掛けに、時たま相手をしてくれる。

 互いに使い慣れた宿は東地区にあって、暗がりに青年が一人腕を組んで立っていた。
 近づけば職業服は着ていないようで、見慣れないコートの彼は遅いと一言口にした。
「ごめん。あと、ありがとう」
 礼を言えば、赤毛の彼はついてこいと言うように先に宿の中に滑りこむ。
 手続きを終えて代価と引き換えに鍵を受け取って先をゆく背中は、いつもより機嫌が悪く苛立っているようで、少しだけ、罪悪感を覚えた。

 あてがわれた部屋の前で、彼は扉を開けて入れと顎で促す。
 素直に従い中へ入れば、続いたラスが閉めた鍵の音がやけに大きく耳についた。
「え、ちょっと」
 直後に、襟首を掴まれてベッドの上に放り投げられて、覆いかぶさるようにラスの顔が間近で見える。
「ココに来たってことはそういうつもりなんだろ?」
 やっぱり機嫌の悪いらしい、ラスの少し抑えた低い声にコクリと頷く。
「一人寝は嫌。一緒に寝てくれるならなんでもいい」
 答えれば、動揺したように青い目が揺れて、ラスは一度ベッドから離れ、
「脱げよ、皺になるの嫌なんだろ」
 そう言って自分もコートを脱いで壁に引っ掛けていた。
 僕もそれにならって一度起き上がり、適当にけど皺にならないように脱いだ服を畳んで纏める。
 慣れたものでお互いそこに恥じらいもなく、準備を済ませて再びベッドに転がった。
 僕とラスが、こうして体を重ねる関係になってそれなりの時間が経つ。
 もしも誰かに、そこに愛情はあるのかと問われれば、僕らは互いにないと即答するし、この先芽生えることもきっとない。
 僕は独り寝が嫌で、彼は性欲の発散のために、お互いを利用しているだけだから。いや殆どの場合、僕のために付き合ってくれてるんだけども。

 全部が終わって心地良い疲労と眠気に包まれて、僕はいつもの様に彼に抱きついた。
 面倒くさそうに、けど優しい手つきでぽんぽんと頭を撫でてくれて、そのうち静かな寝息が聞こえてくる。規則正しいそれを耳にしながら、僕も欠伸を零した。

 夜というには少し遅い時間だけど、誰かの体温を感じていられることに、安堵する。
 僕らは救いのない関係だけど、一時の安息がありますよう。
 ぎゅっとしがみついて、きっと無意識だろうけど抱きしめる腕に力がこめられて、それに笑いながら僕もまぶたを閉じた。

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 寂しさの解消方法。


2013/03/18
 3/16-3/17 Twitterの投稿から、誤字修正したり他
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