おはようからおやすみまで

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アークビショップとウォーロック。
 それらは三次職と呼ばれる職業だけど僕らはまだ成り立てのひよっこで、ずっと前に転職を経ていたギルドメンバーたちには遠く及ばない。
 そもそもの経験が違うからその差は今は仕方ないと、納得はしていた。
 でもそれじゃダメで。
 追いついて。
 並んで。
 いつかは追い抜きたい。

 だから、僕らは強さを求める。
 いつか、背中を預けてもらえるように。



「おはよう」
 と、ユノーが声をかけるとベンチに座っていた赤毛のウォーロックは心底待ちくたびれたという顔で、
「おはよう」
 と、返してくる。
 お互いが吐き出す息は白く染まる程。
 日中は人で賑わうプロンテラの街も、真冬のしかも早朝となれば人影も少ない。
 現に精算広場から見える人影は、商売熱心な商人たちくらいだ。
 太陽はつい先ほど登り始めたばかりで、その恩恵に与れるにはまだまだ時間が掛かりそうだった。

「イルト、用意はいい?」
 腰のポーチからブルージェムストーンを取り出して、ユノーはそう告げる。
「いつでも!」
 イルトと呼ばれたウォーロックは、にやりと笑ってみせると立ち上がり、傍らに立て掛けていたクリムゾンスタッフを手にとった。
「目指せ記録更新」
 いつもの合言葉と共に拳を軽くぶつけると、名も無き島へ続く桟橋へのワープポータルを開いた。


名も無き島 - 昔の話 -
 この島が平和だった頃、どれほどの信者が祈りを捧げたのだろうか。

 プロンテラの大聖堂でも見るような長椅子が倒れた部屋を横切りながら、ウォーロック・イルトはそんなことを考える。
 施設のあちこちには何かの石像が安置されていて、その足元にもはや何が書かれていたのか分からない薄汚れた本が一冊落ちていた。
 冒険者から「名無し」あるいは「修道院」と呼ばれる建物は平穏だった頃の面影をわずかに残すだけで、今はバンシーやゾンビスローター、ネクロマンサーといった魔物たちに占拠されていた。
 島の元々の住人たちの姿は既に無く、時折イルトたちのように魔物を狩る冒険者の姿を見ることがあるくらいだ。

 イルトたちがこの場所にはじめてきたのは、二年前のことだった。
 イルトはまだウィザードで、相棒のアークビショップもプリーストだった頃に、ギルドメンバーに連れられてやってきた。
 ギルドのウォーロックが主火力となって、イルトはブラギに乗ってファイヤーボルトを放ち、プリーストは慣れない大人数支援を必死にこなしていた。
 保護者パーティーに見守られながらのギルド狩りの最中、通りすがりのウォーロックとアークビショップのペアが、さくさくと狩り進んでいるのを見て密かに憧れた。
 いつかそうなってみたい、と。
 それはプリーストも同じだったらしく、転生を果たし三次職に転職してから、二人は幾度と無くこの島へやってきていた。
 結果は惨敗。
 あのペアのように狩るのは、なかなか難しかった。
 開始五分で逃げ帰ること数知れず。
 埃と魔物の液体で汚れた床に倒れた回数などもう、覚えてすらないない。
 それでも、イルトたちは懲りずに通い詰めていた。

「二セット。だけど奥にも二セットいる、こっち来るかも」
 イルトの先を行く褪せた金髪のアークビショップ・ユノーは、歩調を緩めると硬い声でそう警告する。
 今のイルトたちが安定して狩れるのは、同時に二セットまでが限界だった。
 それ以上は攻撃を引き受けるユノーの負担が大きく、共倒れする危険が増す。

 ユノーは普段愛用しているものとは別の聖杖を握って、ホーリーライトを駆使してネクロマンサーたちの注意を引きつける。
「了解」
 敵がアークビショップに接近するまでの間に、イルトは自身の足元にセイフティーウォールを設置すると、すぐさま魔力と魔法の構成を練り上げる。
 確かに、通路の奥に敵影が二つ、見えた。
「――クリムゾンロック!!」
 火球を放ち、間髪入れずソウルエクスパンションを叩き込む。ネクロマンサーの連れるゾンビスローターが倒れたのを確認し、直ぐ様もう一度火球を落とすための構成を組み直す。
 その間にユノーは彼我との間にサンクチュアリを敷く。ぱりんと小気味の良い音を立てて、ブルージェムストーンが砕け散った。
「イルト! まずい、来た」
 同時に切羽詰まった声。
 通路の奥の敵と、それから新たにやってきたネクロマンサーが、イルトの背後から迫る。
「クリムゾンロック!! それから、アイスウォール」
「ナイス」
 ネクロマンサーの進路を塞いだイルトに短い称賛を送って、アークビショップは再び聖句を唱える。

 * * *

「うへー、お疲れ様」
「そっちもお疲れさん」
 追加の追加合わせて七セットのネクロマンサーたちを葬り去って、二人は通路の片隅で一息ついていた。
 現状では、イルトの魔法攻撃は三回必要だった。
 ユノーのレックスエーテルナ、それからイルトの魔法書に込めたクリムゾンロックを利用しても殲滅は追いつかず、二人して回復剤をいくつも使用してようやっとの戦闘結果だった。
「今で三十分くらいかなー、とりあえず新記録達成」
 ユノーが懐中時計を手に確認すると嬉しそうに報告した。
「やっと三十分かー遠いな……」
「まぁ今日の挑戦だけでも少しずつ伸びてるし、それだけで僕は嬉しいけどね」
 ほんとに何回死に戻ったことやら。
 そう続けて、アークビショップは苦笑する。
「どうしよう、続行する? それとも戻る?」
「戻るか。回復剤とか結構使っただろ。俺の手持ちも少ないし、安全第一で」
 イルトがそう答えるとユノーは赤い目を細めて頷いてそうしようかと立ち上がる。
「それじゃ、プロポタ出すよ―」
 あの小気味の良い音と共に開いたポータルに足を踏み入れた。



名も無き島 - 今の話 -
 ワープポータルに足を踏み入れるとき。
 あるいは、カプラサービスを利用しての空間転送を利用するとき、転送独特の感覚を覚える。
 高いところから足を踏み外したような感覚と、めまいにも似たふらつきだ。
 冒険者になって何年も経つ中で、イルトは数えきれないほど転送もポタも利用しているのに未だに慣れない。
 ほんの一瞬のことなのに、いつも顔をしかめてしまう。相棒のアークビショップは涼しい顔をしているのに。

 その上で、修道院の薄暗さに慣れた瞳が明るさに痛みを訴えイルトは思わず目を閉じた。
「ちょっと大丈夫?」
 クリムゾンスタッフを支えにするようなイルトに、ユノーは心配そうに声をかけて更に別のポータルを開いた。
「また酔うからつらいだろうけど、乗って」
 肩を抱くようにしてくぐった先は、ゲフェンのイルトの自宅前だった。
 ユノーは勝手知ったるなんとやらといった様子でイルトの鞄から鍵を取り出すと、慣れた動作で扉を明けてリビングまで連れて行く。
「悪い」
 杖を投げ出して、ソファに腰を下ろした。
 瞳の痛みも、ふらつきもほんの数分前に比べれば格段に良くなったイルトはなんとかそう返した。
「まぁ、暗いとこから明るいとこに出たら、仕方ないよ」
 グラスに水を汲んでテーブルに置くと、
「どうせ泥塗れだしもう一度行くにしても、ね。ちょっと休憩しよう」
 そう言って、ユノーはイルトのスカルキャップを取り傍らに置くと、慣れた動作でその頬に口付けた。
「ちょっと消耗品補充してくるから、一時間後くらいにこっち来るよ。それまでゆっくり休んでいて」
 またあとでと笑って、アークビショップは血と埃で汚れた法衣を翻し、一度だけイルトの頭を撫でて出て行った。
「俺の意見は無視かよ……」
 イルトは、頬を押さえながら彼の姿を見送ると、溜息を吐いて、グラスに手を伸ばした。


独占したい 隠したい
 お互いの家は何度も何年も行き来していたし、先ほどの約束もあったから、遠慮なくユノーはイルトの家へ上がり込む。

 修道院をうろつくのはゾンビスローターをはじめとしたアンデッドばかりだ。
 ウォーロックとペアする上で、アークビショップのユノーはそれらの攻撃を一身に引き受けなければならない――というよりは、前衛を担当する者としての意地に近く、誰が彼を攻撃させてたまるかと言う方が正しいかもしれないが。
 キリエや盾を利用して攻撃を防ぎ、傷はヒールで癒やしたとしても、法衣に飛び散る魔物たちの体液は防ぎようがなく。おまけに走り回り、降り注ぐ火球の熱とで汗をかく。
 狩りを始めれば気にはならないが、さすがに町中を歩くのは躊躇するくらいで。
 汚れた法衣は浸け置き用のバケツに突っ込んで、シャワーで汗を流し新しい法衣に身を包んだ今、心は非常に晴れやかだった。

「イルト迎えに来た……」
 そのままリビングまで上がり込んで、ユノーは慌てて口を閉じた。
 窓から差し込む日差しを浴びて、ソファでその人は眠っていた。
 彼も着替えたのか清潔な魔法使いの服に身を包んで、テーブルの上には空っぽのグラス。その横にスカルキャップと愛用のクリムゾンスタッフが置かれている。
「熟睡してるかなあ、これは」
 綺麗な黒瞳は閉じられたまま寝息を立てているイルトを覗きこんで、ユノーはどうしたもんかと呟いた。
 少し迷って法衣を脱ぐと、そのまま毛布代わりに彼にかけてやる。
 そして起こさないように、そっと隣に腰をおろした。

 * * *

 ユノーとイルトは、恋人だ。
 ユノーのおせっかいからイルトをギルドに誘ったのがきっかけで、ただのギルドメンバーから、友人に。友人から狩りの相棒に。それから、恋人へと発展した。
 何の障害もなく、そうなったわけではもちろんない。意見の違いでぶつかったこともあるくらいだ。

 イルトはウォーロックだ。
 正直な所、狩りの相棒としてはユノーに勿体無い位の腕前だと惚気無しで宣言できる。
 修道院へ通い始めた頃は、コツもつかめず、お互い何度も転んでいた。それでもめげずに通い詰めて、今がある。
 的確な魔法の展開、余計な攻撃を受けない位置取りの上手さと高火力。どれをとっても、最高だと言える。
 ユノーはイルトが好きだ。
 少しだけ高慢な性格とか、人嫌いに見えて実は単に距離のとり方がわからないだけだとか、外では見せないだけで実は甘いものが好物なのを隠していることとか。そんな所がとても愛おしい。
 魔法を行使するために詠唱する声や、杖を振るう動作一つひとつも好きだ。
 死してなお、この世を彷徨う哀れな魔物を焼き尽くす時、イルトが浮かべる冷たい表情すら。
 例えば、それはどの程度の威力の魔法を放てば、ソレがどのような状態になるかを確かめるようで。
 そして、ギルドメンバーの誰一人として、知らないだろう。対人戦で同様の笑みを浮かべることに。

 その笑みが酷く魅力的だった。

 何も知らないまま眠る魔法使いの姿に、ユノーはくつくつと笑う。
「僕は幸せだ。君の隣でこうしていられるなんて」
 囁くように口にして、恋人の赤毛に触れる。
 姿も声すらも独占したい。
 その思いを隠す日々。


雨の日
 ザァザァと明け方から降り始めた雨は、弱まるそぶりを見せなかった。

 ルーンミッドガッツのほぼ全域が雨らしく、ギルドチャットを通じて、仕方なく予定をキャンセルした。少なくともこのゲフェンでは、家を出た瞬間にびしょ濡れになって狩りになりそうにもないからだ。
 今日も修道院へ行くはずの予定が潰れたウォーロックは、積み上げていた本の処理にかかった。
 いつもの職業服ではなく私服で、お茶とお菓子を共にしてページを繰る。

 雨音を耳にしながらの読書は、思いのほかはかどった。
 ウィザードギルドの知人から薦められた三冊目の魔術書を半ば程まで目を通した所で、来客を告げるチャイムが鳴る。
 雨足は弱まるどころかいっそう激しく、物好きな来訪者に嘆息すると読み掛けの本に栞をはさみ彼は玄関へと向かう。
「誰…って、お前なぁ」
 玄関を開ければ良く知っているアークビショップが、困ったように苦笑いを浮かべていた。
 全身がぐっしょり濡れていて、法衣の上着は絞られた後か丸くなって脇に抱えられていた。
「……タオル、取って来るわ」
 慌ててバスタオルを取りに行き、また急いで戻ってアークビショップに被せてやる。
「何でこんな日に来たんだよ」
「プロはもう少しマシだったんだよ? 転送使ったら土砂降りで……まさか、ゲフェンがこんなに雨降ってるとか思わないし」
 アークビショップは早口でそう言い訳すると、
「……イルトに会いたかったんだ」
 とタオルの隙間から、気まずそうにそう言った。


攻城戦
 それは僕がまだプリーストだった時のことだ。
 攻城戦の時、僕はいつもベースにいた。
 その頃は対人戦はまだ怖く、砦に行く勇気はなかったから。それでも、せめて拾ってくれた皆の役に立ちたいと、ワープポータルを出し傷を癒やし戦場へ送り出していた。
 ベースに戻る仲間は大抵傷だらけで、悔しそうにまた戦場に駆け出していくのだ。
 対人戦にはただただ恐怖しか感じなかった時だったから、どうしてみんながそこまでするのか、わからなかった。

 時を経て。
 僕も、戦場に立つようになった。
 あの時わからなかったことを、少しだけ、理解できたような気がした。誰かの攻撃を受けて『死んだ』時、無力さを思い知る。
 あの瞬間、もっと他に出来ることがあったのではないか、と。
 正解はわからないけれど、多分、あの時見た表情は、きっとこれに類似していると思う。

 僕はアークビショップだ。
 ブレッシングに速度上昇。主に魔法職にはサクラメントを。攻撃職にはエクスピアティオを。敵から与えられた不利な効果を打ち消して、少しでも有利になるように。
 僕には誰かを倒せるような力はない。
 だから、味方の攻撃に合わせてレックスエーテルナを投げる。
 支援。それが僕の役割だ。
 判断を間違えて目の前で仲間が倒れるときほど悔しいことはない。
 ベースに戻されて、悔しさに泣きたくなる時だってある。

 そして、彼も同じだと気付いた。

 僕とイルトは、古参のメンバーに比べ、装備も耐久も貧弱で、しばしばベースに戻される。
 回復して戦場に駆け戻り……ふと伺う彼の顔は、いつも悔しさに満ちていた。
 無力さに嘆きたくなる時も彼は諦めずに何度でも突撃を繰り返す。そんな彼が心配であると同時に好きだった。
 怒号と閃光の中で、傷つきながらも呪文を紡ぐ姿は、狩り中ですら見惚れそうになるほど美しい。
 だからこそ、怖かった。
 いつかベースで見た血塗れのギルドメンバーの姿。幸運にも一命は取り留めたものの、死んでいたかもしれない傷を負っていた。
 それが、彼の身に降り懸かることが怖かった。

「突撃カウント!」
 仲間の合図を耳にして、自分に割り振られた人達に支援スキルを上書きしていく。割り振られたパーティーは違うものの、傍らの彼にもそっと同じものを飛ばす。
 彼は先頭に立つ指揮官のカウントに真剣に耳を傾けているようで。
「――行くぞ!」
 合図と同時に、僕は駆け出した。
彼よりも早く先へ行けるようにと。
 少しでも長く彼と仲間たちが留まれるようにと。


たまには逆転
「どういうつもりなのかな、イルト君」
 自室の寝台で仰向けになっているのはいい。
 問題なのは、ユノーを押し倒す形でイルトが上にいて……組み敷かれていることだ。
「たまには逆転もいいだろ?」
 イルトはそう言って、反論しようとしたユノーに笑って見せて。
放とうとした罵倒は、彼の口によって封じられた。


望んで、縋って、また望む
「おはよう」からはじまって「また明日」で終わって。
 狩り中に交わす言葉はそれ程多くないけれど、決して居心地が悪いわけではなくて。
 信頼されている。
 必要とされている。
 それだけで、十分に幸せだった。

 『135』と冒険者証に刻まれた数字は、彼自身の力量の目安だ。飛び抜けた数字ではないけれど、少しは自信を持てる。
「上見てもキリはないけど」
 溜息混じりに呟いて、サイドテーブルに冒険者証を投げ出した。

 元々、ユノーは転生に積極的ではなかった。
 少しでも多くの選択肢が欲しくて転生を目指したけれど、敵対する誰かを圧倒するような『強さ』は性に合わない。
 だけど、せめてこの手が届く人くらいは守れるように。
 そう願って転生を望み、果たし、修練を積んできた。もっとも、その望んだ『強さ』を得られたか自信がなかった。だから、刻まれた数字に縋る。
 狩りで、攻城戦で。
 傷付いた大切なその人を見て何度青ざめたか。
 ただのプリーストだった時よりも格段に選択肢は増えたけれど、それでも、冒険者である限り恐怖はついてまわる。
 もう一度だけ冒険者証に目を遣り、寝台に横になる。
 独りの夜はどうにも、悪い方へ思考が向かう。

 夜を恐れるようになったの、はいつからだろうか。
 気がついた時にはもう、既に誰かを求めていた。

 窓の外、暗い空には月ひとつ。
 暗い部屋には彼がひとり。

 寝付けないまま、カチカチと時を刻む音を数える。
 闇色の空は夜明けが遠いことを知らしめる。

「君に逢いたい」
 
 次に目を開ける時夜明けを迎えていることを願いながら、祈るように目を閉じた。


「おやすみなさい」
「久しぶり」
 肉声を聞いて、思わず嬉しくて笑ってしまった。

 それくらいお互いの予定がすれ違い、一緒に狩りに行く機会がなかった。
 ギルドチャットなどで会話はしていたものの、面と向かって顔を合わせることができたのはおおよそ一週間ぶりだった。

 時間が空いた時戯れに南に落ちたはいいものの、イルトはただただ物足りなさを実感するだけだった。
 別に、そのアークビショップが下手だったわけではない。時給だって普段とそう変わらなかったし、きめ細かい支援のお陰でむしろ快適だった。
 ただ単に、彼がいない。
 それを思い知って寂しかっただけ、なのだ。
 決して認めたくないことではあるが。

 * * *

 久々に顔を合わせるなり、もうすっかりと日が暮れているというのに、二人して声を揃えて修道院と口にしてけらけら笑う。
 イルトもユノーも、いつもの修道院用装備だったからだ。

 前を征く背を、いつも見ていた。
 油断なく周囲を見回し、気にかけるように時折向けられる視線。
 癖なのか、前髪に手を伸ばす動作。
 気遣う声と神へ祈る聖句を紡ぐ声。触れる温もり。
 そのひとつひとつがどれも懐かしくて、そして満たされる。

「クリムゾンロック!!」
 
 魔力を練り上げ、構成を組んで、解き放つ。
 一連の動作に集中できるのもユノーのお陰だ。
 こいつにならすべてを預けることが出来る。そのくらい信頼しているのだ。

 こうして欲しいと思ったことを、彼はまるでこちらの心を読んでいるかのように実現してくれる。
 息が合うというのだろうか。
 連携がうまくいくこと事態が心地よかった。

 * * *

 結局その日の狩りはお互いが疲れ果てるまで続いて、ゲフェンのイルトの家に戻った頃には、日付が変わる頃だった。

「今日もお疲れさま」
「そっちもおつかれ」
 そんな会話をしながら、軽く夜食を摘んで空きっ腹を満たした。
 話題の中心は今日の狩りの反省で、ああでもない、こうでもないと言うのが、ただただ楽しかった。

「それじゃ、そろそろ寝るか」
 いい加減話し疲れて二人でそう言って灯りを消す。

「おやすみ、イルト。良い夢を」
「ん、おやすみ」

 狭い寝台に、男二人で潜り込んで、笑って言葉を交わす。


また「おはよう」
 閉め忘れたらしいカーテンの隙間から、差し込む朝日で目が覚めた。
 自分の部屋ではないけれど見慣れた天井を暫し見上げて、ユノーは傍らで眠る恋人の額に口付けそっと寝台を抜け出した。

 ゆっくりした動作で服を着替え終わる頃に、ようやく恋人は目が覚めたらしい。
 暖かな寝台の中でもぞもぞと動く彼に、
「おはよう」
 とユノーが声をかけると、赤毛の魔法使いは眠そうな顔で少しだけ眉を寄せ、
「おはよう」
 と、不機嫌そうに返す。
 その声はいつもより低く掠れていた。
「風邪?」
 昨日は普通に喋って寝ただけなのに、と考えながら横になったままのウォーロックの額に手を当てた。
「熱はないと思うぞ。多分、喉使いすぎじゃないかな、昨日はさすがに狩りのし過ぎだった」
 けほんと乾いた咳をひとつして、イルトはそう言った。
「ああーかもしれないね、わかった。今日は狩りやめてゆっくりしよ」
 そう言うと、イルトは少しだけ不満そうな顔をする。その額を軽く弾いて。
「魔法使いが喉痛めたら大変でしょ? 後でジェネさんにお願いして喉に良いお薬もらって来るよ」
 ひとまず何か飲み物をと部屋を出ようとしてイルトに背を向けると、
「普段は散々な癖に?」
 からかうような口調でいわれて。だから、
「それとこれとは別ですー」
 笑いながらそう返した。


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どうか、貴方のそばに。


2014/01/12発行「おはようからおやすみまで」より
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