とある冒険者たちと迷子の少年

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ちりんちりん、と澄んだ音を立てる鈴。
お気に入りのそれを無くさないように。
大事に大事に、ポケットに仕舞った。



とある露店主と聖職者
 夏も間近なこの季節。
 露店を開く場所は、壮絶な取り合いになる。なるべくカプラに近く、利便性の良い場所。それでいて風通しもよく、日中は日影になりやすい、一等地。
 赤毛のメカニック・ラスフェルドは運良く、その争奪戦を勝ち抜いて『一等地』に本日の店を出していた。並べるのはギルドメンバーたちから委託された製薬品や装備の類、それから自前の装備と消耗品類だ。
「お代ぴったり頂きました、またのご利用お待ちしております」
 常連客に消耗品を詰め込んだ袋を渡し愛想よくその後姿を見送ってから、彼は傍らにおいた水筒から水を口に含んだ。
「……」
 喉の渇きを癒してくれはするものの、すっかり、水は温くなっていて。はぁと盛大に溜息をついて、ラスフェルドは自分の目と同じ色の空を見上げた。
 中央カプラのすぐ側で、建物と建物の間に位置する通路だからこそ、確かに風通しは良い。通りのど真ん中に比べれば日影で涼しく過ごしやすいが、夏が近いのだ。珍しく数日続いた雨がようやくやんだと思えば、一気に気温は上がりふざけるなと太陽に叫びたくなるほどに。じっとりした空気に、汗ばんだ額を拭い、そろそろ店仕舞をするか悩んでいた頃。
「青石くださいなー」
 よく知った声を聞いた。
 視線を戻せば、小分けにしたブルージェムストーンの袋を指さしながらしゃがみ込むアークビショップの青年の姿。褪せた金髪をポニーテールにして、赤い目は笑っていた。
「やぁ、ラス。商売の方がどう?」
「消耗品の売れ行きはいいね、お前さんみたいな客が多いし。で、どんくらいいるよ」
 ラスフェルドが苦笑しながら、在庫数を提示すれば、アークビショップははうーんと首を傾げ三百と口にする。彼はラスフェルドと同じギルドに所属している。
 名を、ユノーと言う。
「在庫なくなったのか?」
 百ずつ小分けした袋を三つ分手渡し問えば、青年――ユノーはそうだと肯定した。
「朝からずーっと名無し行っててさ、気がついたら倉庫の方が危なくて」
 保険用なのだと、説明された。
 確かによく見ると、名も無き島の修道院を走り回っていたのだろう痕跡が、青いアークビショップの法衣のあちこちに残っている。
「名無し、か。あっち涼しいんじゃねーの」
「うーん、確かに入り口とかは涼しいんだけど、どっちみち走り回るし、火魔法使うでしょ。どうしようもないね」
 プロは暑すぎるんだとユノーは鬱陶しそうに口にすると、
「よし、続き行ってくるよ、露店がんばって」
 手を振り、ポニーテールを揺らしながら精算広場に向かって駆けていった。
「がんばるねぇ……さて、店仕舞するか」
 どうせまた名無しにでも行くのだろう友人の姿を見送ると、並べた商品をカートへ戻しはじめた。
 割れ物は壊さないように、予め緩衝材を詰めた箱のなかに。
 消耗品は種類ごとに大袋にまとめ、装備類のなかででもかさばるものは倉庫に、細かなものはそのままカートへ。
 慣れた動作でものの数分で片付けを終える。
 空いた場所を狙う同業者に片手を上げて、ギルドハウスへ向かい始めたその瞬間。

 ピローン

 軽快な音が『WIS』の着信を告げた。


とある聖職者と魔法使い
 (絶望的だ)

 イルトは空を仰いでそう、思った。
 悲しくなるほどに、天気が良かったからだ。
 空には雲がひとつもない。
 そう、絶好の洗濯日和。
 ご近所の皆さんが大喜びしそうな天気だ。

 悲しいことに、つい先日まで雨続きだったのだ。気温は程よく過ごしやすかった。それなのに、太陽が顔を出した途端、この気温の上昇だ。
 
 イルトは魔法使いだ。
 常に身につけている冒険者証の職業欄にはウォーロックと記載されている。
 相棒であるアークビショップと名無しを駆け巡る時以外は、基本的に家かウィザードギルドにいるかのどれかしかしない。
 本を読むか、研究の手伝いをするか、だ。
 つまりは、根本的に体力がないのだ。
(それでも他人よりはマシだけど)
 暑いと、スカルキャップを団扇のかわりにして風を送りながら、イルトは精算広場近くの建物の影で涼んでいた。

 ほんの十分ほど前まで、イルトと相棒のアークビショップ・ユノーは二人で名も無き修道院を走り回っていた。
 かつては失敗を重ね、安定して狩りを続けられなかったその場所で、今では耐久と称して物資と体力の続く限り滞在することができるようになった。
 今は物資の補給を兼ねての休憩時間だ。
 もっとも、そろそろ昼飯時なため、打ち切る可能性も十分あるのだが。
「青石補給してくる」
 そう言って露店街へ走り去っていった相棒を、待っているのだ。

「暑い」
 本格的な夏がやってくる時には、ルティエあたりに引っ越そうかと、本気で検討するほどに。

「暑い……まだかなあ」
 呟いて、クリムゾンスタッフから手を離し、帽子は頭に。
どうにも我慢できないのだから仕方ない。
 小さく詠唱するのはストームガスト。ただし、魔力は最小限に絞って。そして浮かべるイメージは、エナジーコートに近い。冷気を拡散するのではなく、己の周囲に留めるように術式を組み立てていき、そこで組み立てた魔法の一部を手放した。制御の部分だけは、自身の手の中に握ったままで。
 ふわりと、心地良い冷気が周囲を覆い、イルトは満足気に息を吐きだす。

「おまたせ」
 待ち人が戻ってきたのはそれから五分ほどしてからだった。手土産のつもりか、冷たい炭酸水の入った瓶を渡してきて、ごめんと申し訳そうな笑みを浮かべる。
「待ちくたびれた」
 文句を言いながら、イルトは先ほどから維持していた冷気の魔法の中に、ユノーを招き入れた。ひんやりした空気に驚いたのか、瞠目する様子がおかしくて。
「わざわざ買ってきたんだ」
 受け取った瓶のキャップを取って口にする。
「うん。見かけたからつい、ね。にしてもよく冷えてる……」
 ユノーは気持ちいいと、瓶に頬をくっつけて笑う。
「イルトはこの後、どうする? 僕はもうちょい走れそうだけど、昼ごはんまだだし、あと一セットくらい? それとも戻る?」
「そうだなあ……それじゃあと一時間だけ行こうぜ」
 イルトは空き瓶を鞄に放り込みそう言って、杖を手に立ち上がる。
「ん、それじゃあポタ出すよ」
 同じように鞄にしまったらしい青年も立ち上がって、青石を握りこむ。
「ワープポータル」
 イルトですら、もう暗唱できるほど繰り返し聞いた祈りの言葉を鍵として、展開された移動魔法の中に足を踏み入れる。

 ふわりと体が持ち上がるような感覚と、めまいにも似たふらつきが、瞬きする間にやってくる。ほんの一瞬で、人であふれるプロンテラの街から、寂れた桟橋へと視界が切り替わる。
 対岸の島はもやに包まれ、うっすらと建物らしき影が見えて。
「行こうか」
 繋がれた小舟に乗り移り、二人は島を目指した。

 * * *

 狩りは順調そのものだった。途中、決壊しかけのペアと遭遇したけれど、名も無き修道院を徘徊しているかつての神官ヒバムとは出会うこともなく、二人はぐるぐると回廊を駆けていた。
 前を行くアークビショップの進行速度が少し落ちるのを見て、イルトは魔法力増幅を詠唱する。
 彼が手にした杖の先を進行方向に向けた時には、イルトはもう数歩のところまで追いついていて、その先で三体のネクロマンサーとその従者の注意を引いている様子が伺える。
 魔力を集め魔法を構築していき、程なくして炎の塊がネクロマンサーたちに降り注ぐ。間髪入れず、二度目の詠唱。魔法が発動するかどうかの瞬間には、アークビショップは駆け出していて、殲滅を確認したイルトは、またその後を追うように走りだす。
 時間いっぱい続くそれは、まるで鬼ごっこのようだと、イルトは思う。鬼役のアークビショップのことは、絶対に捕まえられないのだけれど。

 * * *

「一時間」
 人も魔物も見当たらない小部屋でユノーはそう言って、戻ろうとワープポータルを開く。
「早いなあ」
 笑って、イルトは足を踏み入れる。
 瞬きするほどの短さの暗転。浮遊感を覚えて。

 その時だ。
『ユノー、イルト。ちょい、手貸してくれないか?』
 ギルドチャットで呼びかけられたのは。

 昼下がりの精算広場。
 二人は顔を見合わせ、
『構わないけど、どうしたの、ラス?』
『いいけど、何かあったのか、ラスフェルド』
 ほとんど同時に、声の主に呼びかけていた。


迷子の少年
 フェイヨン北部、弓手村近くに位置する洞窟は、一歩中に入ればファミリアーやスケルトン、ゾンビなどが彷徨う迷宮になる。そのまま奥へ進めばより凶悪な魔物が徘徊しているものの、ユノーとイルトの二人がまだ一次職だった頃には手頃な狩場として利用されていた場所でもあった。
 けれど、一般人、まして子供がたったひとりで踏破できるような場所ではないはずだ。

「暗いしモンスターはいるし、ホントにこんなとこに来るのか?」
 近寄ってくるファミリアーに鬱陶しそうに低威力のファイヤーボルトを打ち込んで、ウォーロック・イルトは気怠げに口にする。赤く染め抜いた頭の上には、いつものスカルキャップではなく風の道標が乗っていた。
「入り口のあたりまでは、度胸試し、みたいな場所みたいだし……正直無駄足の方がありがたいけど、村にいないなら可能性は排除できない。それに本当にここにいたら気分わるいでしょ」
 明らかに不機嫌な魔法使いをなだめながら、アークビショップ・ユノーは苦笑する。不機嫌なのは人探しが理由ではなく、単に洞窟が嫌なのだろう。太陽の光が入らないこの場所はじめじめしているし、空気も淀んでいる。死者の魔物が彷徨い歩く時点で、気分は最悪だろう。彼は、基本的にこういう場所が嫌いなのだから。
ユノーはぐるりと辺りを見回すが、周囲には二人以外にはモンスターの姿があるくらいだった。

 * * *

『ユノー、イルト。ちょい、手貸してくれないか?』

 ギルドチャットで呼びかけてきたのは、メカニックのラスフェルドだった。
 いつもよりも慌てた様子の声に、イルトとユノーの二人は顔を見合わせ、二つ返事で了承した。

 呼び出された場所はフェイヨンで、カプラの空間転送を利用してやってきた先、二人は呼び出し人であるラスフェルドとフェイヨンの村人たちに囲まれた。

「村の子供が行方不明になったんだ」
「かくれんぼをしていたようなんだが、ひとりが戻らないんだ」
「村内は総出で探したけれど……もしかすると外にいるのかもしれない」
 村人たちは口々にそう言い、ラスフェルドの深刻な顔で続けた。
「さっきギルマスとかにも連絡して、ウルフ森あたりまで見に行ってもらったけど、見当たらないらしくてさ。今から捜索に出るんだけど、ふたりも手伝ってくれ」
 頼む、と頭を下げられれば、二人に断る理由もない。

 ウルフ森や、砦方面へと人員を割り振っていき、二人に任されたのは件の洞窟だった。

* * *

 一階を通り過ぎ、そのまま一つ下の階層を練り歩いても、探し人の少年の姿は見当たらなかった。
「流石に、ここはないだろう」
 魔法使いの言葉にユノーは同意しながら、それでも三階にまで足を踏み入れ探索を始める。
『何か進展はあった? 今から三階だけど』
『いやこっちはない。……悪いな』
 短く耳打ちで報告し合い、結果にユノーは落胆の溜息をつく。
「進展はないらしい。流石にいないか」

 探し人は七歳になる少年だった。
 ジェンという名前の、茶色い髪に人懐っこい笑みを浮かべる子らしく、探索に出かける前、その両親が二人して頭を下げ、お願いしますと言われていた。
「いないさ、きっと」
 脳裏にちらつく最悪の可能性を打ち消して、イルトはそう言う。
 沈黙が、居心地悪かった。

 * * *

「誰だ」

 岩陰に杖先を向けながらイルトが叫んだのは、そのしばらく後だった。
 徘徊する魔物から身を隠すかのように、隠れていた影はびくりと震え、それから少し躊躇うようにして動き出した。

「ご、ごめんなさい」

 こぼれる涙を拭い涙声で、その子供は謝罪の言葉を口にする。
「茶髪……ってことは、ジェイ?」
 三階になると彷徨う魔物はより凶悪になっていて、子供一人でよく無事だったなとイルトは呟いて、泣くなと頭を撫でている。
思った以上に優しげな手つきと眼差しを向ける黒瞳に、ユノーは微笑むと、子供に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
 ざっと見たところ、泥などで汚れてはいるものの、怪我らしい怪我は見当たらない。少なくとも朝から六時間以上経過しているはずだが衰弱している様子も無く、ほっとしながら持ってきていた水筒を差し出し、
「怪我はない? お母さんたちが心配していたよ、戻ろうか」
 安心させるように笑ってブルージェムストーンをポーチから取り出した。
「あ、あの」
嗚咽を我慢するように、震えた声で子供は言った。
「捜し物、あるから戻れないの」
「捜し物? なんだよそれ」
「お、おかあさんからもらった鈴のついたお守り。大事にしてって言われてたのに、なくして、ずっとさがしてたの」
 泣きじゃくる子供から、イルトへ視線向けると、魔法使いは仕方ないというように一つ頷いた。
「……どんなのか詳しく聞かせてくれるかな、探すの手伝うよ」
 石をポーチに戻しながら、泣かないでいいよと、頭を撫でて、たどたどしい説明に二人は耳を傾ける。


「僕が先導するから、ジェイをお願い」
「ユノーがテレポで飛び回った方が早くないか?」
「それだと見落としもある。僕だけならなんとでも出来るけど、子供もいるし。だいたいの場所わかってるみたいだし、固まる方が楽だと思う」

 そんなやりとりを経て、方針を決めるのはすぐだった。
 ジェイが言うには、好奇心から洞窟に踏み入れ魔物に追われるうちに深くまで迷い込んだ、らしい。
 それをなくしたと気づいたのは二階の途中で、少なくとも三階ではないとも。

「桜色の鈴がついたお守りなの。ちりんってなるのがすごく綺麗で、おかあさんが大事にしてねって」
 鈴は、ジェイ少年の親指と人差し指で作った円ほどの大きさで、藍と白の組紐がついているという。
「すぐ見つかるよ」
 励ますように声をかけて、一行は薄暗い洞窟を進んだ。

 * * *

 不安そうな子供を励ます意味も込めて、三人は雑談を繰り広げる。そろそろ夏が来るけれど、学問所が休みの時は何をするのか、だとか。好きな料理だとか、おすすめの隠れ場所だとか。
 けたけたと笑いながら、それでも大人二人は油断なく周囲を気にしながら進んで。

「ねぇ、探し物ってこれかなあ」
 それを見つけたのは、ユノーだった。
そろそろ一階へ差し掛かるという通路だった。目についたそれを拾い上げて、ユノーは鈴を子供の前に掲げてみせた。
 少しだけ土に汚れてしまった桃色の鈴はチリンと澄んだ音を立て揺れる。
 ジェイは緑色の瞳がこぼれ落ちるのではないかというくらい見開いて、それだと嬉しそうに言い。ぴょんぴょんと飛び跳ねてみせた。
「ありがとう、お兄ちゃんたち」
「依頼は終了か。ラスに連絡入れとくわ」
「お願い。ジェイ、次からは無茶しないで誰か大人に助けてもらうんだよ?」
 やっと陽の下に行けると杖を持ったまま伸びをする魔法使いの隣で、ユノーは苦笑しながらくしゃりと少年の頭をなでる。
「うん、次があったらそうするよ。お兄ちゃんたちほんとにありがとう」
 にこにこと笑う少年は、汚れてしまった鈴のお守りを愛おしそうに撫で上げて、二人を見上げた。
「これで僕、おかあさんに会えるね」
「よかったなあ。じゃあ村に戻ろう」
「あはは、じゃあポタ出すからその上乗ってくれるかな?」
 笑って言って、ポーチからブルージェムストーンを一つ取り出すと、短い詠唱後ワープポータルを展開した。ぱりんと軽快な音と共に石は砕け散る。
 ユノーは目線で、イルトが顎でワープポータルを示しても少年はそこから動くことなく、先ほどと変わらぬ笑顔のまま二人を見ていた。
「どうかしたか? ポタが消えるぞ」
 動かない少年にイルトが呼びかければ、彼はゆるゆると頭を振って数歩下がった。
「僕は……乗れないんだ」
 そう少年が言うと同時にワープポータルはその力を失い消滅した。
 怪訝そうに眉を寄せるイルトたちの目の前で、少年は俯いたまま鈴をぎゅっと握りしめている。
「……宝物、見つけてくれてありがとう。ほんとうに嬉しかったよ」
「おい」
 違和感を先に感じたのはイルトだった。
 せっぱ詰まった声に、ユノーも気がつく。
 少年の声にノイズが入ったように聞こえることに。
 ゆらりと、かげろうのように、少年の姿が霞んでみえることに。

「ずっとずっと探してたんだ。
 あっちこっち探しても見つからなくて、だから帰れなくて。
 でもやっと見つかった」
 ありがとう。
 と、そう言って少年は顔を上げた。
 ふっと、鈴が地に落ち、少年は溶けるように闇に消えた。

「今のは何だ」
「……わかんないけど。生きた人じゃ、なかったみたいだね」
 ユノーはそっと鈴を拾い上げ、魔法使いへと差し出した。
「さっきと違う」
「さっきは、真新しかったものね……これは、ずっとあそこにあったのかな」
 鈴は錆が浮かんでいて、振っても先ほどのような澄んだ音はしない。組み紐からも鮮やかさは失われ、もとの色が判別できないほどで。
「……とりあえず、戻ろう。こっちも気になるけど、本物も気になる」
 そういって、再度ユノーはワープポータルを展開したのだった。

 * * *

 二人がフェイヨンに戻った時、丁度女性が茶髪の少年に抱きついているところだった。
 帰還に気づいたラスフェルドは、複雑そうな顔で駆け寄り、
「ジェイ、南の森でいたんだ。木の根本に隠れてて、丁度イルトから連絡来た頃に」
 二人にだけ、聞こえる声で簡単に説明した。かわりに、イルトはかいつまんで要点を説明し、ユノーが例の鈴をさし出した。
「これ、拾ったんだ。……例の子が消えた時に、足元に落ちてて」
 何だと思うという問いかけに、ラスフェルドはしげしげと鈴に視線を落として、それから壊れ物を扱うような手つきでその鈴を受け取った。
「ひとつ心当たりがある……。ちょっと調べるから、数日程時間もらっていいか」
 見つけた場所を教えてほしい。そう問われて、ユノーとイルトは二人して承諾し、おおよその座標を伝え、その日は村人たちから感謝され後にした。


その後の話
『ちょいと時間、あるか』
 ラスフェルドが、ユノーとイルトの二人を呼び出したのは、その数日後のことだった。
 プロンテラにあるギルドハウスの食堂で、ラスフェルド手製のケーキを振る舞いながら、その後の報告を行う。

「結論から言えば、二人が見た子供、いたよ」

 紅茶のカップに口をつけながら、無感情になるようにつとめ、伝えた。
 向かいに並んで座る二人は、やっぱりかというように落胆するのを見て、ラスフェルドは参ったなと溜息をついた。
「……もう十五年くらいになるのかねぇ。俺も小さくてあんまり覚えてないんだけど、大人たちが騒いでたことがあってさ」

 ――の息子が見つからない。
 家に飛び込んできたのは近所に住む男で、ラスフェルドの両親は――二人共現役の冒険者だったからだろう、武器をひっつかんで家を飛び出していったことがあった。事件の詳細こそ思い出せないものの、ただならぬ空気に妹と二人、心細い夜を過ごしたことだけは覚えていた。
 総出で山狩りと、やはり洞窟の捜索を行ったもののついに少年は見つかること無く時は無情にも過ぎていったのだ。
「行方不明になる前に、あそこの一部が崩落する事故があったんだけど。多分、小規模な崩落があって、そこに巻き込まれたんじゃないかっていう見解になってる」
 
 その子が大きな岩陰に隠れるようにしていたのだと、ラスフェルドは二人から聞いていた。
 小さな子供なら隠れられるようなくぼみがあって、魔物に追いかけられ、身を隠すために入り込んだのだろう。
 そして、巻き込まれた。

「ずっと、あそこを彷徨ってたのかな」
 ぽつりと呟いたのは、アークビショップで、傍らのウォーロックは「さてな」と続ける。
「とても死人には思えないくらい、ぬくもりとかはあったんだけどな……」
 手のひらに視線を落とし、イルトは言って紅茶のカップにその手を伸ばす。
「……鈴は、その子の家族のとこに返したし、ちゃんと弔いもしたよ。ジェイの親もあの子の家族も、皆も協力してくれてありがとうって、言っていた。俺も自分の故郷の人たちだし、助けてくれて助かった。いつか必ず、この恩は返す」
 何の慰めにもなりはしないだろうけれど、ラスフェルドはそう言って二人に頭を下げた。




ちりん、と鈴が澄んだ音を立てる、
それを片手に大事に握って。
残った方はおかあさんと手をつないで。
二人で帰る、夕暮れのみち。


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2014/06/15発行同人誌「とある冒険者たちと迷子の少年」
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