「なー」
「んー」
「なぁ。俺が死んだら、あの樹の下に埋めてくれないか」
「……」
「あ、別に死ぬ気でいくわけじゃないんだ。
ただ、ほら。俺は勇者でも不死身の英雄でもないから、万が一を否定できない」
「英雄でも勇者でもないなら、別にお前じゃなくてもいいだろう?
影じゃ赤い悪魔だの死神だの言われてるんだし」
「お前のいうように確かに俺じゃなくっていいんだけどさ。でも、俺だからこそ、かな。
こうなるまでは影どころか面と向かって悪魔と罵られるわ、殺されかけるわ、色々あったし。
散々な目にあってきた自覚はあるけど、もしかしたらって思うわけさ。
『もし今頑張れば、将来生まれてくる赤髪赤眼の子が、差別されることはなくなるんじゃないか?』ってな」
「…………」
「今の世代じゃ無理かもしれないけどさー。少しくらいはそんな未来を夢見たい」
「ほんっとうに、お人好しだよなお前。少しは自分の幸せ、考えろよ」
「これでも十分考えたさ。どうせなら、可愛い弟が幸せに生きられる時代にしたいし。
それじゃ行ってくる。一世一代の大勝負、勝利もぎ取ってくるから楽しみにしてろよ」
「ったく、気をつけて勝ってこい。負けたら承知しねぇ」
「はは、お前に本気だされたら俺なんてあっというまさ。また後で、酒飲もうぜ」