※メモ:創作:異世界トリップ組の話 ゲテモノ注意? 一応、念の為に。
ごくりと、喉が鳴ったのをシュウは自覚した。
真っ白な皿の上には、見知らぬナニカが堂々とのせられていた。
知っているものの中で、一番近いものに例えれば、大きなカエル、であろうか。
シュウは、正しくは山本修司と言う名前を持っている、歴とした日本人で、十二年前に地球でも日本でもないこの地へと迷いこんできた。
言葉も常識、人種や生活習慣すら違うこの地で生きてきて、食べ物の違いに苦労したことはもちろんあった。
その食べ物の形状とシュウが連想する物とで、味や触感、においに差があることは多々あることで、グロい外見に反して非常に美味なことも、当然あった。
けれど、目の前にあるソレはどう見てもカエルだ。
伸びた四肢も形状もそっくり。指らしきものの間には水かきのようなものも見える。
唯一違うのは、四肢を除いた体が、シュウの手のひらより二回りほど大きいことだろうか。
「これ何……? 食べれるの?」
「ラーナの香草焼き、普通に食べれる」
眼前の青年はおいしいからと力説し、周囲の仲間たちも口々に大丈夫と説明する。
それは何度も繰り返された光景だ。
まだろくに意思疎通が出来ない頃、色こそオレンジがかってはいたがりんごに似た様な形状の果物を勧められるまま口にして、非常に後悔した覚えがあるのだ。
辛いというか非常に痛かったのだ。あれは人間が食べるものではないとシュウは思っているし、それから怪しいものは念を押した上で口にしている。
「大丈夫大丈夫、おいしいから食べてみなって」
兄貴分の青年は安心させるように繰り返し、食べやすいようにとそれを切り分け差し出してくる。
皿を受け取ったシュウは、躊躇いがちに手を伸ばす。
足らしきものを持った感触は、手羽先を握る感覚に近い。
鼻先に持ってきたそれからは異臭はしないし、香草のにおいが空腹を誘う。
「……っ」
意を決して一口かじり、肉を口に放り込む。
途端、広がる酸味とも苦味とも表現できる、なんとも言えない味と、溢れ出る唾液。
香草の気配など感じる余裕もない。
浮かぶのは後悔の二文字。数秒前の自分を殴りつけたくなるほど、壮絶に不味い。
無言で水に手を伸ばし、咀嚼もそこそこに無理やり飲み込んで、
「ごめん、やっぱり無理」
シュウは行儀の悪さなど関係なく、食べかけのそれを皿に戻すと水のおかわりを求めたのだ。
「えー、美味しいんだけどなぁ……」
残念そうに青年はつぶやくと、その食べ物を口に放り込むと満足そうに目を細めたのだった。
お題:見知らぬ食事 必須要素:唾液 制限時間:30分
小説家になろうの異世界トリップ話より。ラーナは、スペイン語のrana、カエルから。