真っ白な封筒の宛名は丸みを帯びた可愛らしい文字で書かれていた。
それをはいと差し出すと、
「まぁ、ありがとう」
封筒を嬉しそうに受け取ると、女性は笑って礼を口にした。
「これが、おれの仕事ですから。それではまた」
赤い帽子をかぶった少年は、女性に頭を下げるとまた駆け出して行った。
次に向うのは五軒先の小さな家。
少年が肩に掛けるカバンの中には、たくさんの手紙が入っている。
彼の仕事は、あちこちから集まったそれらをこの村とその周辺に届けることだった。
また、担当地域からの手紙や荷物を預かり、他の地区の担当者に引き渡すのもまた、彼の仕事だった。
村の外を出れば、魔獣のうろつく大地が広がる。そこを駆け抜け、手紙を届ける。その仕事に喜んで就くものは少なかったい。
けれど少年は「配達員」と呼ばれるその仕事が一番好きで、誇りを持っていた。
「手紙届けに来ました!」
家の前で、少年は叫ぶ。
慌ただしく錠の落ちる音がして、家の住人が出てきた。
「はいこれ。いつもの、帝都の息子さんからレシエさんへの手紙です」
「まぁ! あの子からなのね」
女性――レシエは、嬉しそうに手紙を受け取り、封筒の裏に書かれた差出人名を確かめると、
「それじゃ、またあとで来てくれるかしら? 返事を届けてほしいのだけれど」
「わかりました。他の人のところに手紙を配達してから、必ず」
少年がにっこり笑って言うと、レシエはお願いするわと言った。
礼をしてから少年は他の家に向う。
――ありがとう、というその笑顔のために、彼は今日も手紙を運ぶ。