――凄惨な事件の数少ない生き残り。
それがウィルに向けられる世間の目だった。
彼は救出される以前より全ての記憶をなくしている。
医者に言わせれば、過度なショックから心を守るために忘れているのだろう、ということらしい。
もちろん、事件以前には幸福な記憶もあっただろうけれど、
叶うならば、一生当時のことは思い出さないで欲しいと思っている。
彼はよく笑う子供だった。
事件の生き残りだということを忘れるくらい、良く笑い、よく食べて、よく走りまわる。
正確な年齢はわからないものの、引き取った当時は七歳、八歳くらいだったろうか。
村には彼と同年齢ほどの子が数人、年上の子も少しいたけれど、すぐに仲良くなった。
その様子に、よかったと思いながら、私は罪悪感を覚えた。
周囲は言った――あなたは優しい人だと。
何も知らないからこそ、彼らはその行為を賛美する。
その子供を引き取ったのは、親切心からでも同情心からでもなかった。
引き取り、養育するだけの時間と手間を考えた上で、そうすることこそが利益になると、そう考えた。
そう、全ては私自身のため。
そうだったはずだ。
目的のためだったのに、気がつけば私は彼にある感情を抱いていた。
親が子に向ける愛情、言葉にするならばそれだろう。
目的のための教育のはずが、生きるために必要な知識を教えることに変わったのはいつだったろうか。
物覚えも良く、砂が水を飲み込むように、教えたことをすぐに身に付けていく。
食べられるものと食べてはいけないもの。天気の読み方、魔法の扱い方、歴史に文字、それから身を守る方法。
知っていることは、教えられるだけ教えた。
心も体も、日々成長する彼に、内心嬉しく思った。
忘れかけていた、我が子と暮らした日々を思い出すようで。この十年近い時間は、私にとって最高の日々だ。
今ならば胸を張って言えるだろう。
最初はたしかに、利用するつもりで引き取ったけれど、今は違うと。
私はウィルのことをわが子のように思っている、と。
もしも彼を傷つけるものがいるならば、私は全力を以てして、それらを退けることも誓う。
子を守らない親など、いないのだから。