振り続ける雨、弱まる気配も見せないその中を走った。 もとより運動は苦手で、その時ほど真剣に走ったことはなかったのだ。 靴に水が入り込み、地を蹴るたび にばしゃばしゃと嫌な音がする。 重みも増し、そして寒い。喉が切れたように痛く血のような嫌なにおいがする。 何度も立ち止まろうとしてできなかった。 ただひたすら街を目指して走った。走り続けた。 * * * それから一週間が経って事件の顛末は、報告書として魔術師ギルドに提出されていた。 中級二位以上――その閲覧条件さえ満たせば誰でも見ることはできたが、ハルアにはその権限はなく、かわりにといって手渡されたのは、サンテラスから冒険者組合に提出されるはずの報告書。 組合に提出したものとほぼ同じ内容よと、ソレイユは笑っていた。 書かれていたのは事件の概要、首謀者、被害者のこと。 またハルアたち関係者がどう動いたかがまとめられていた。 そう、あまりにも綺麗に出来過ぎた内容だった。 「ソレイユさん、これは」 虚偽報告ではないかと視線を向ければ、魔女と呼ばれる女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。 「顛末を報告せよと命じられたからそうしただけよ? そもそも実験結果は記録に残る報告書には記載できないし、外部に公開するわけにも行かない」 「ですがそれでは報告書の意味が……」 「あくまで私の報告書ですもの。まして裏切り者に真実を報告できるわけがない」 きっぱりと言い切るソレイユは、不機嫌そうに肩にかかる青銀髪を払いのけた。 |
ブログに乗せていたもの。 「ケイちゃんは、進路考えてるのー?」 そう問われたのは秋の夕暮れだった。 そのときのぼくは将来のことなんてなにも考えていなくて、ただ行ける範囲の大学に入ればそれでいいと答えた。そんないい加減な返答に彼女は残念そうに唇をとがらせ、「それなら違う学校になっちゃうね」と言ったのだ。 幼いころ、しょっちゅう病院の世話になっていた彼女にとって、看護婦さん――今はもう呼び名はかわっているが――という存在は身近でそして憧れだったらしい。 印象的だったのはひたすら違う大学に進むことを謝る姿だった。 すっかり日の落ちた放課後の学校には、部活と自習に励む生徒しかおらず、その部屋の近くにいるのはぼくだけのようだった。 胸の中の空気を全部入れ替えるように深呼吸して、ぼくは握った手を開くとドアにのばした。 窓から差し込む日差しは暖かく、ケイは苦労して欠伸を噛み殺した。 つい先日までの寒さが嘘のように気温は上がり、あちこちに植えられた桜が一気に花を咲かせた今日は、絶好の入学式日和と言えるだろう。 入学式の舞台となる体育館はこの春に完成したばかりなのだと、壇上の男は言った。 たしかに体育館には、できたての建物の独特のにおいで満ちていた。 長い式が終わった後、新入生たちは自分の所属する教室へ移動することになる。 ケイが所属することになったのは1年5組で、教室に張り出された座席表を見て自分の席についた。 |