memo
2011/02/01 (Tue)
* 断章:魔女
 振り続ける雨、弱まる気配も見せないその中を走った。
 もとより運動は苦手で、その時ほど真剣に走ったことはなかったのだ。

 靴に水が入り込み、地を蹴るたび
にばしゃばしゃと嫌な音がする。
 重みも増し、そして寒い。喉が切れたように痛く血のような嫌なにおいがする。
 何度も立ち止まろうとしてできなかった。
 ただひたすら街を目指して走った。走り続けた。


 * * *

 それから一週間が経って事件の顛末は、報告書として魔術師ギルドに提出されていた。
 中級二位以上――その閲覧条件さえ満たせば誰でも見ることはできたが、ハルアにはその権限はなく、かわりにといって手渡されたのは、サンテラスから冒険者組合に提出されるはずの報告書。
 組合に提出したものとほぼ同じ内容よと、ソレイユは笑っていた。

 書かれていたのは事件の概要、首謀者、被害者のこと。
 またハルアたち関係者がどう動いたかがまとめられていた。
 そう、あまりにも綺麗に出来過ぎた内容だった。
「ソレイユさん、これは」
 虚偽報告ではないかと視線を向ければ、魔女と呼ばれる女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「顛末を報告せよと命じられたからそうしただけよ? そもそも実験結果は記録に残る報告書には記載できないし、外部に公開するわけにも行かない」
「ですがそれでは報告書の意味が……」
「あくまで私の報告書ですもの。まして裏切り者に真実を報告できるわけがない」
 きっぱりと言い切るソレイユは、不機嫌そうに肩にかかる青銀髪を払いのけた。

2011/01/31 (Mon)
* 放課後:ブログから救済分
ブログに乗せていたもの。

「ケイちゃんは、進路考えてるのー?」
 そう問われたのは秋の夕暮れだった。
 そのときのぼくは将来のことなんてなにも考えていなくて、ただ行ける範囲の大学に入ればそれでいいと答えた。そんないい加減な返答に彼女は残念そうに唇をとがらせ、「それなら違う学校になっちゃうね」と言ったのだ。

 幼いころ、しょっちゅう病院の世話になっていた彼女にとって、看護婦さん――今はもう呼び名はかわっているが――という存在は身近でそして憧れだったらしい。
 印象的だったのはひたすら違う大学に進むことを謝る姿だった。


 すっかり日の落ちた放課後の学校には、部活と自習に励む生徒しかおらず、その部屋の近くにいるのはぼくだけのようだった。
 胸の中の空気を全部入れ替えるように深呼吸して、ぼくは握った手を開くとドアにのばした。



 窓から差し込む日差しは暖かく、ケイは苦労して欠伸を噛み殺した。

 つい先日までの寒さが嘘のように気温は上がり、あちこちに植えられた桜が一気に花を咲かせた今日は、絶好の入学式日和と言えるだろう。
 入学式の舞台となる体育館はこの春に完成したばかりなのだと、壇上の男は言った。
 たしかに体育館には、できたての建物の独特のにおいで満ちていた。

 長い式が終わった後、新入生たちは自分の所属する教室へ移動することになる。
 ケイが所属することになったのは1年5組で、教室に張り出された座席表を見て自分の席についた。

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