「アキ!」
「やぁ。元気そうでなにより。気がついたら大樹の根本でびっくりしたよ」
「ほんとに……アキなんだな」
「はは、じゃなかったらあんたの前にいるのはいったい誰? ……エストが来て、あいつが来ないっていうのは」
「大体、想像通りだと思う」
「そっかぁ……逝っちゃったか」
「本意では、なかった。生きて帰るつもりだった。ただ……なんというか。
俺はその場所に居合わせる事はできなかった。けど、気にしてたって」
「あいつらしいわ……。ねぇエスト。あの日から、一体どれくらい経ったのかなあ?」
「嘘言っても仕方ない、か。……7、いや8年かな」
「そ。変わりはないってことはほんとなんだね……昨日のことみたいなのに。エストはこれからも……こんな思いするの?」
「ある意味酷い質問だよな。……人間生きてりゃ誰だって経験するさ。俺の場合はその機会が多い。それだけのことだ。
永遠なんて、ありはしない。<死>は遅かれ早かれ平等に降りかかってくる災厄だ」
「だけど納得なんて出来ないよ。長いなーあいつに会えるまで」
「納得出来る別れなんざそうそうあるわけない。
……恋愛して結婚して子供授かって、てんやわんやしてあっという間に、だ。すぐだ。すぐに会える」
「……強いね」
「こればっかりは生まれだからしゃあないさ。
『ひとりにしてごめん。それから僕のことは忘れてくれたら嬉しい。君の歩む道に祝福がありますように』ってあいつからの伝言。
ちなみに俺には『アキのこと守ってくれたら嬉しい』だとさ」
「人の心配ばっかりで、よりにもよって親友に押し付ける? あたしそこまで弱くないよ」
「あいつ妙に家族とか恋人に夢持ってたからなぁ。まぁお前たちが笑って過ごせる程度の時間全力で守ってやる」
「気づいてたの、か」
「まぁな。ただ眠りの影響があるからどうなるか……」
「ダイジョーブ。皆に守られたんだ、きっと大丈夫だよ。
……正直守ってもらえるのはありがたいんだけどね、それじゃあんたはどうするの?」
「俺はヘーキなの。ただでさえ人生長いんだ。お前らの百年なんか一瞬のことさ。だから、平気。
お前が笑って逝くの見届けてやる。その後は放浪して、そのあとあいつの願い叶えてもいいかなって」
「弟か。よく言ってたもんね、会いたい会いたいって」
「ああ。多分、生家のあったとこだろうってさ。場所は昔聞いて覚えてる、山脈の南西側だとさ」
「ふーん。あいつの故郷か。じゃ、あたしはそこに住もうかな」
「……? 襲撃にあったらしいから廃墟になってると思うぞ」
「ほらーどうせならその場所におうちあればいいじゃない。こういうことがあるんだって、あたしはこの子に伝えたい。
いつか、あいつの家族に辿り着くために」
「最短でも五百年は先の話、だぞ。ブレれば千年だってあり得るだろう。それまでに家が断絶する可能性はゼロじゃない」
「いいの。可能性のひとつだよ、だってあんただって間に合わないかもしれないじゃない。
だったら、彼を迎えるための手段は多いほうがいい。それが千年先のことであってもね」
「……」
「セッカもリンも……あたしもフレイも寿命って壁がある。
絶対に叶えられないことなんだ。でも、だけどエストの人生はエストだけのもの。重荷だと思えば忘れて」
「ひっでぇ、俺はそこまで薄情じゃないっての」
「わかってるよ。エストは、あたしが世界で一番愛してる人が躊躇なく背中預けた人だ。なんだかんだでお人好しの、信頼に足る人物だしね。
長い長いその旅路だ。遠い遠い昔のあたしたちを重荷に感じることはないんだ。
もしその長い時の中で気が向けば、エストの歩む道を彼と交わらせて。」
「ああ。いつかやってくるフレイの弟に、必ず会うよ」
「うん。もしかしたら捨てられたとか、悲しい思いに囚われるかも知れない。
そうじゃなくって愛されたんだ、その結果なんだって、どうか、フレイたちの声を届けてあげて」