... 断章・04 ...
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「アキ!」

「やぁ。元気そうでなにより。気がついたら大樹の根本でびっくりしたよ」

「ほんとに……アキなんだな」

「はは、じゃなかったらあんたの前にいるのはいったい誰? ……エストが来て、あいつが来ないっていうのは」

「大体、想像通りだと思う」

「そっかぁ……逝っちゃったか」

「本意では、なかった。生きて帰るつもりだった。ただ……なんというか。 俺はその場所に居合わせる事はできなかった。けど、気にしてたって」

「あいつらしいわ……。ねぇエスト。あの日から、一体どれくらい経ったのかなあ?」

「嘘言っても仕方ない、か。……7、いや8年かな」

「そ。変わりはないってことはほんとなんだね……昨日のことみたいなのに。エストはこれからも……こんな思いするの?」

「ある意味酷い質問だよな。……人間生きてりゃ誰だって経験するさ。俺の場合はその機会が多い。それだけのことだ。 永遠なんて、ありはしない。<死>は遅かれ早かれ平等に降りかかってくる災厄だ」

「だけど納得なんて出来ないよ。長いなーあいつに会えるまで」

「納得出来る別れなんざそうそうあるわけない。 ……恋愛して結婚して子供授かって、てんやわんやしてあっという間に、だ。すぐだ。すぐに会える」

「……強いね」

「こればっかりは生まれだからしゃあないさ。
『ひとりにしてごめん。それから僕のことは忘れてくれたら嬉しい。君の歩む道に祝福がありますように』ってあいつからの伝言。
 ちなみに俺には『アキのこと守ってくれたら嬉しい』だとさ」

「人の心配ばっかりで、よりにもよって親友に押し付ける? あたしそこまで弱くないよ」

「あいつ妙に家族とか恋人に夢持ってたからなぁ。まぁお前たちが笑って過ごせる程度の時間全力で守ってやる」

「気づいてたの、か」

「まぁな。ただ眠りの影響があるからどうなるか……」

「ダイジョーブ。皆に守られたんだ、きっと大丈夫だよ。
 ……正直守ってもらえるのはありがたいんだけどね、それじゃあんたはどうするの?」

「俺はヘーキなの。ただでさえ人生長いんだ。お前らの百年なんか一瞬のことさ。だから、平気。
 お前が笑って逝くの見届けてやる。その後は放浪して、そのあとあいつの願い叶えてもいいかなって」

「弟か。よく言ってたもんね、会いたい会いたいって」

「ああ。多分、生家のあったとこだろうってさ。場所は昔聞いて覚えてる、山脈の南西側だとさ」

「ふーん。あいつの故郷か。じゃ、あたしはそこに住もうかな」

「……? 襲撃にあったらしいから廃墟になってると思うぞ」

「ほらーどうせならその場所におうちあればいいじゃない。こういうことがあるんだって、あたしはこの子に伝えたい。
 いつか、あいつの家族に辿り着くために」

「最短でも五百年は先の話、だぞ。ブレれば千年だってあり得るだろう。それまでに家が断絶する可能性はゼロじゃない」

「いいの。可能性のひとつだよ、だってあんただって間に合わないかもしれないじゃない。
 だったら、彼を迎えるための手段は多いほうがいい。それが千年先のことであってもね」

「……」

「セッカもリンも……あたしもフレイも寿命って壁がある。
 絶対に叶えられないことなんだ。でも、だけどエストの人生はエストだけのもの。重荷だと思えば忘れて」

「ひっでぇ、俺はそこまで薄情じゃないっての」

「わかってるよ。エストは、あたしが世界で一番愛してる人が躊躇なく背中預けた人だ。なんだかんだでお人好しの、信頼に足る人物だしね。
 長い長いその旅路だ。遠い遠い昔のあたしたちを重荷に感じることはないんだ。
 もしその長い時の中で気が向けば、エストの歩む道を彼と交わらせて。」

「ああ。いつかやってくるフレイの弟に、必ず会うよ」

「うん。もしかしたら捨てられたとか、悲しい思いに囚われるかも知れない。
 そうじゃなくって愛されたんだ、その結果なんだって、どうか、フレイたちの声を届けてあげて」


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掲載日:2011/06/01
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