... 太陽のように。 ...
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 その少女の髪は明るい金色で、よく手入れされたそれは癖もなくまっすぐだ。
 あまり日に焼けていない白い肌。
 澄んだ空のような青い瞳。
 どこか人形めいた容姿の少女は、拙い例えではあるが、リーンにとって太陽のような存在だった。

 エルという名の少女とリーンは、血の繋がらない兄妹だ。
 そして、保護者であるラズとも、血は繋がっていない。

 七年前の大雨の日に、エルは何かから守られるように灰色の布包まれて家にやってきた。
 誰かから声を奪われたとラズは言い、その日から彼ら三人の生活は始まった。

 声が出ない。
 それを除けば、エルはごく普通の娘だった。
 十二になったばかりの少女は快活に笑い、村の娘たちと楽しそうに駆け回る。
 行商人がやって来たり、ラズが遠方に出かける際は、都会で流行っているリボンや服をねだったりする。

 その日も、半月ぶりに行商人が村に立ち寄った。
 集まった人々は収穫されたばかりの作物や、ラズの作った装飾品を売り渡し、かわりに、風邪や怪我に効く薬や遠方の品だという香辛料やお茶を仕入れる。
 村人がひっきりなしに訪れていたものの、日が傾く頃にはまばらになり、その頃を見計らいリーンも彼らの本を訪れた。
 あらかじめ渡されていた小遣いから異国の本を一冊と、砂糖菓子をこっそり買った。
 一緒にやってきていたエルも商人と筆談しながら、何かを選んでいたようだった。

 翌朝も快晴で、空は見事に雲ひとつ無く、太陽がさんさんと輝いていた。

 朝食を終えたラズは早速行商人を隣の村まで護衛しに行き、家にはリーンとエルの二人だけ。
 窓際に椅子を運び、直射日光に当たらぬように、リーンは昨日買ったばかりの本を開く。
 内容は簡単で、異国での神話の解釈が書かれているのだ。
 知っている内容とわずかに違う物語を夢中で読み進めていると、ふっと視線を感じた。
 頁から目をはなせば、エルが申し訳なさそうに手を差し出す。
 その手には、赤いリボンの飾りがついた髪ゴムだった。  空いた左手は自分の金髪を指さしていた。

「(髪、くくってほしいの)」

 唇はそう言葉を紡いでいて、リーンは苦笑して本を閉じた。
 柔らかく真っ直ぐなはずの金髪は、ところどころくしゃくしゃになっている。
 鏡を見ながら一生懸命練習したようだが、うまく行かなかったらしい。

 日差しの差し込む、明るい床の上に椅子を移動させ、
「編みこめばいいか?」
 ゴムを受け取ると、物語の中で騎士が王女にするように、エルをそこへと案内する。

 太陽を受けきらきら輝く髪を手櫛で整えてやりながら、リーンは眩しそうに赤い瞳を細めた。


お題:明るい場所 必須要素:ゴム 制限時間:1時間
工房より、リーンとエルのお話。


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掲載日:2012/11/28
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