あいつの猫は黒猫だ。
まだ子供なのか小さくて、私の腕でも抱えられるほど。
真っ赤な瞳が印象的な、大人しい猫だった。
猫は飼い主のそばから離れずにいた。しっぽをぴんと伸ばし、付き従う姿が微笑ましい。
立入禁止の場所を指示されれば、入り口で大人しく主を待ち、見かねた教会の住人たちがかまってやれば素直に付き合ってくれる。
けれど主人が戻ってくると、ふいと興味を失ったように彼に駆け寄り甘えた声をあげていた。
ユールという名前の黒猫は、ちょっとした人気者でもあった。
この教会では、子供を何人か、一時的に保護している。
私自身が昔そうであったように、悲しみから立ち上がりその先が見える程度に落ち着けるまでの時間を与えてくれる。
望めば職を紹介するし、私のように教会で学ぶことも出来るのだ。
ユールという猫は、よく子供たちの部屋へ姿を現す。
まだ幼い少女など、歓声をあげて飛び上がるくらいだ。
もみくちゃにされながらも、戻ってくるときには、どこか誇らしげにしっぽがぴんと立っている。
「あんたの猫って猫らしくないよね」
気まぐれと聞いていたけれど、あいつの猫はそう思えなくて、一度聞いてみた。
「男らしくなかったり女らしくなかったりする人間がいるんだし、猫らしくない猫くらいいてもおかしくないさ」
あいつはそう言うと、なぁ? と肩の黒猫に語りかけて笑った。
黒猫は、にゃーんと同意するように鳴いて、ひだまりの下で丸くなった。
お題:あいつの猫 制限時間:30分
望むものは より。アリス視点。