・擬似親子で20のお題 - 追憶の苑様より
01:昨日までの見知らぬ人
「はっ、それなら俺が引き取る。今更駄目だとかやめろなんて、言わねぇよなあ?」
知らないたくさんの男の人たちの前で、その人はわたしを抱いてそう言ったの。
見上げた先、黒い布に覆われていない方の目で男の人たちを睨み付けていた。
その人はわたしに気がつくと、優しそうな笑みを浮かべてくれて、それにとても安心したのを覚えているわ。
次に目が覚めたとき、知らない部屋にいた。天井も部屋の空気すらも覚えのない場所だった。
まわりを確かめようと起きあがろうとして力が入らなくて、
「あ、起きたのか」
ごそごそと動いていたら、知らない声にそう言われた。
声の方を向けば、知らない男の子がいた。男の子は黒い髪にきれいな赤い目をしていた。
「何かほしいもの、ある?」
大きな赤い目をぱちぱちと瞬きながら言われて、とてもお水がほしくなった。
ベッドサイドに置かれた水差しが目に入って、それを指さして、
「ぁう……」
お水と口にしたつもりだった。
出たのは意味を持たないかすれた音で、びっくりしているわたしの頭を、くしゃりとその子はなでてくれた。
水差しからコップに移して、それを私に持たせるともう一度頭をなでて、男の子は、ちょっと待ってろと言って部屋を出ていった。
「え、ぅー」
コップの水を飲み干して名前を口にしようとしても、喉の奥で言葉がつっかえたようにそれはきちんとした音にならなかった。
喉が渇いていたから、ではなかったの。悲しくて悲しくてぽろぽろと涙がこぼれて、
それからすぐにぱたぱたという二人分の足音がして、あの男の子といっしょに、あの人がやって来た。
「うわ、なにか俺した!?」
泣いてるわたしに慌てるように男の子は駆け寄って、ふかふかした真っ白なタオルで顔を拭ってくれる。
ふるふると頭を降るわたしに、男の子は困ったように男の人を見上げた。
改めてみた男の人はすごく美人さんだった。今でもそう思う。
毛先が少しだけ青くなった銀色の髪に、左目が薄い水色のようなそんな色。右目はあの黒い布で隠されていた。
「あー、やっぱりこうなるよな……」
困ったように男の人は言って、男の子の隣に視線を合わすようにしゃがみ込んだ。
「状況説明の前に、俺はラズって名前だ。こいつは、リーン」
ぴっと親指で男の子をさして、ラズと名乗った男の人は言う。
「いろいろ……あったからな。声が出ないらしいが、しばらくすれば戻るはずだ。
俺も、リーンも血の繋がりはないし、お前ともないけど、今日からこの家で家族として過ごそう」
ゆっくりゆっくりそう言った。
わたしはわたしの名前を言いたかったけれどやっぱり声が出なくて、おろおろするわたしの頭をラズは優しくなでてくれた。
「エル」
そう呼ばれてこくりとうなずく。
「エル……よろしく」
リーンという男の子はにっと笑って、ラズと一緒に頭をなでてくれた。
そうして、わたしたち三人は家族になったのだ。