... 手を繋いで歩く道 ...
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・擬似親子で20のお題 - 追憶の苑様より
10:手を繋いで、

 三人での生活がはじまってしばらくのことだった。
 生活に必要なものもあるだろうと三人揃ってやって来たのは、彼らの住む村から南西に徒歩で半日程の距離にある、 キーダルフという名前の街だった。キーダルフはレクナー大陸の中でも、五指に入るほど大きな街で、 人よりも家畜が多い村と比べて、あまりにも大勢の人波にエルは前を歩くラズたちについていくのが精一杯だった。
 今日の目的地は衣料雑貨店で、エルと成長盛りのリーンの服を買うのが主目的で、 その後に食料品街で買い物をして帰る……それが今日の予定だ。
 ラズが転移した先は中央広場の外れの小さな木のすぐそばで、そこから東通りを歩けば、右手側に目的の店があるという。
 依頼の帰りかどこか晴れ晴れしたような冒険者の一団や、港へ荷を運ぶのか慌ただしく掛けていく馬車や買い物で賑わう一般客とで通りは混雑し、 いつしか、ラズの衣装の裾を握っていたエルの小さな手は離れてしまっていた。
 それに気づいたラズがエルを抱き上げようと手を伸ばしたとき、その間を一人の男が駆けていき、
「…っ!」
 一瞬足を止めたエルが、あっと思ったときにはもう遅く、養父の姿は遠くにあった。
 駆け寄ろうにも人の流れに逆走するかたちのエルはなかなか前に進めず、人に埋もれてしまった彼女を、ラズは見失ったのか 青くなり「エル!」と名を呼ぶ。
 声にならない声でここにいると叫んだ時だ、
「ほら」
 ぐいと、力強く手をひかれたのは。
 見上げれば、ほっとしたように眉尻を下げたリーンがいて。
「俺たちはここにいるから先へ行け!」
 彼らの養父が気づくようにと空いた手をぶんぶんと振り上げ、リーンは叫ぶ。
 人と人との隙間から見えた養父は、わかったというように杖を持たぬ手を挙げると背を向け歩きはじめる。
「……とりあえずこっち」
 再びはぐれぬようにと、しっかりと手を繋ぎ、リーンはエルを人の少ない街路の端まで誘導する。
 改めて息をつくと、にっと笑っていった。
「目的地もわかってるし、これくらいなら抱き上げなくっても手を繋いでりゃ十分だろ」
 そう笑って、繋いだ手に少しだけ力を込めて、二人はゆっくりと養父の背を追いはじめた。
 手を繋いだそのことがうれしくて、エルもぎゅっと、白く冷たい手を握り返したったのだった。


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掲載日:2011/04/21
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